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AI時代の学び方「超」独学法:野口悠紀雄教授インタビュー

クラウドサービスと従来のサービスの違い

人間と同じように、AIで知的作業ができるようになる未来。ブロックチェーンで経営者や管理者がいなくても運営できるようになる事業体。すぐそこまで迫っているそんな未来が実現したとき、私たちが個人としてその能力を最大限に発揮するには、どうしたらいいのでしょうか? AI時代、新しい働き方を実現するためにもっとも重要なスキルを、経済学者・野口悠紀雄先生にお聞きしました。

知的な作業も人間の専売特許ではなくなった

近年、コンピュータの性能が非常に高まり、とくにAI(人工知能)の発達は目覚ましいものがあります。それによって、人間の仕事がコンピュータに代替されるということが、今後、急速に進展していくでしょう。

今までは、コンピュータが人間の仕事をする場合、工場で機械の操作をするというような単純労働が主な対象でした。こうしたコンピュータをロボティクスといいます。ところが、今はかなり高度な知的作業までできるようになってきています。それがAIです。与えられた仕事をするだけでなく、さまざまな判断をしながら、人間の知的な作業を代替する。非常に大きな変化です。

会計業界でいえば、記帳や計算は単純作業ですから、ロボティクスの領域です。一方、ある領収書が経費として計上するのが適切かどうかというのは、判断が含まれることですから、AIの領域です。こうしたAIが実際に仕事に取り入れられていくのはまだ先の話ですが、今後急速に進展していくのは間違いありません。 問題は、コンピュータがそういう能力を備えてきた場合に、はたしてAIと人間のどちらがよりよく実行できるかということです。

たとえば、税理士・会計士の仕事には、単に税法に従って適正な処理をするというだけでなく、より収益性の高い事業にするためのアドバイスなど、それ以上の判断を要するものもあるでしょう。ただし、こうしたアドバイスは必ずしも全員ができるわけではありません。

そこで起きるのが、人間とコンピュータの競争なのです。コンピュータでもそういうアドバイスはできます。簡単ではありませんが、ある種のモデルに従うことで、「この部分をこう直せば事業の収益性が高まるだろう」と判断することは、コンピュータにも可能だからです。

となると、コンピュータと人間を比べたとき、人間のほうがつねに能力が高いと言えるでしょうか。大いに疑問でしょう。少なくとも「知的な作業は人間にしかできないものではない」という点は、間違いありません。

自分がすべきことは「勉強」から見えてくる

では、そのとき人間はどうすればいいのか。絶対に必要なのは、コンピュータでは代替できない仕事が何かを見つけていくことです。 たとえば、AIに会社の収益性を高めるアドバイスをさせるなら、そのための仕組みを作る人が必要です。収益性を分析し、コンピュータのプログラムに書く。そういう仕事はどの分野でも残ります。

しかし、それだけではないはずです。その仕事が何かは、分野によっても異なるでしょうが、ここで強調したいのは、それが何かを“探す”のが重要だという点です。「私が知りたいことは一体何なのだろうか」「私がすべきことは一体何なのだろうか」と問いかける。それは、その人がそれまで習得した知識と問題意識によって決定されます。だからこそ、その課題に答えるには「勉強」が必要なのです。

人間は勉強する生物です。もちろん他の動物も学習はしますが、その在り方は大きく異なります。多くの動物は生まれつき、ある種の能力を持っています。しかし、学習によってその能力が向上することはほとんどありません。たとえば、アリは生まれたときからいろいろなことができますが、成長するにつれてその能力が向上していくことはありません。

一方、人間は、生まれたときは非常に弱いのに、その後の勉強によってどんどん能力が向上するのです。これこそが人間の特殊性です。勉強は人間にとって非常に重要なのです。

コンピュータの学習と勉強(=人間の学習)の違い

人間の学習方法は特殊です。コンピュータと人間では、学習の在り方がまったく異なるのです。

今のコンピュータがどういう学習をしているかといえば、「機械学習」と言われるものです。今までコンピュータが仕事をするためのプログラムは、すべて人間が書いていました。しかし、その一部分を機械が自動的に学習できるようになった。それが機械学習です。最近のAIの進歩は、機械学習の1つであるディープラーニングが進化したおかげです。

たとえば、今までコンピュータでは図形の認識はできませんでした。しかし、機械学習によってパターン認識と呼ばれるものが可能になり、図形が認識できるようになってきました。

AIが自然言語を理解できるようになったのも、パターン認識の発達のおかげです。これまでのコンピュータで読むことができるものは非常に限られていました。人間が自然に話す言語、あるいは手書きの文字を理解するためには、パターン認識が必要だったのです。それができるようになった。

これは素晴らしい進歩です。しかし、コンピュータの学習は非常に限られた部分にしか適用されません。イヌとネコの写真をどうやって区別するか、あるいは人間の自然言語をどうやって理解するか、データを与えてパターンを認識させる。そういうことしかできないのです。

それは、われわれが普通「勉強」と呼ぶものとは異なります。われわれの「勉強」とは、今まで知らなかった能力を身につけたり、新しい知識を得たり、新しい方法を身につけたりすることです。単に1つの目標に向かってデータを蓄積するだけではありません。

人間は勉強することによって、「企業の収益性を高めるにはどうしたらいいのか」という漠然とした問いに答えたり、「過去において収益性が高い会社とはどういう会社であったか」という研究結果をさまざまに応用できたりします。コンピュータとはまったく違う。それこそが「人間の学習」です。

「何を学べばいいか」は学校では教えてくれない!

税理士・会計士のみなさんは、これまで資格を取るための勉強をし、適法な税務処理の在り方を学んできました。その勉強は学校教育で教えるのが適しているものです。税理士・会計士の仕事は、これまでそれが中心でした。

しかし、その仕事は今後AIに取って代わられるでしょう。今後は、それよりもっと先に進んだ仕事が必要です。そのためには、学校教育的な意識を変えていかなければいけません。

なぜなら、学校で習うことは決まっているからです。学校では、何を勉強するかを知らなくても勉強ができます。机に座っていれば、先生が教えてくれる。学校での勉強は受動的なのです。しかも、学校で教えるのは社会生活を営むために誰にとっても最低限必要とされる内容です。昔から言われてきた「読み・書き・そろばん」のように、学校は大勢に共通して必要なことを教えるのです。

では、「私が知りたいことは一体何なのだろうか」ということを、学校が教えられるでしょうか。おそらく不可能でしょう。それは自分で見つけなくてはいけない。つまり、自分から学ぶ「独学」が必要だということです。今はもう「新しいことを学ぶために学校に行く」という考えでは、乗り切れない時代になっているのです。

『鏡の国のアリス』には、「あるところに留まるには、走り続けなければならない」という赤の女王の言葉が登場します。これを聞いたアリスは「変なことを言う」と思いますが、今の世の中は実際にそのようなものになりました。なぜなら、技術進歩が加速しているからです。新しい技術のなかにはこれまでの世の中を一変するディスラプター(破壊者)も多く、フリーランサーなど新しい働き方もどんどん浸透しています。そうした世の中では、学校で習うことはあっという間に陳腐化するため、自分自身を教育し直すことが必要になるのです。すると、変化はチャンスに変わります。組織に依存するのではなく、1人1人が「個人としての市場価値を持っているかどうか」が問われる時代になっているのです

管理者がいなくなる!?未来の事業像

ところで、私たちの働き方に変化をもたらすのはAIだけではありません。ブロックチェーンの技術も働き方に大きく影響します。「DAO」(Decentralized Autonomous Organization=自律分散型組織)という言葉をご存知でしょうか? 労働者はいるけれど、管理者がいない組織のことをあらわします。

たとえば、ビットコインは「ビットコインプロトコル」というコンピュータ・プログラムによって運営されており、管理者がいません。プログラムに従ってコンピュータが情報処理をしているだけなのです。そして、「マイナー」(採掘者)と呼ばれるコンピュータを操作する人が従業員に当たります。

この仕組みの応用で、将来は管理者や経営者がいない事業体が登場すると予測されます。おそらく、もっとも近い将来に登場するDAOは、タクシー会社でしょう。タクシー会社では管理者どころか、労働者も存在しなくなる。運転手という労働者がAIの自動運転に代わるからです。

DAOを運営するには、その会社の運営ルールを決めてプログラムに書き、ブロックチェーンで運営すればいいのです。営業時間は何時までにするか、ガソリンがなくなったらどこのガソリンスタンドで給油するか、顧客と料金の交渉をできるようにするのか、その他いろいろな決定をして、プログラムに書く。それをブロックチェーンで運営すれば、管理者も経営者もいりません。それは十分あり得る未来です。

もちろん無人の税理士事務所もあり得ます。自動的に税務処理していく会社です。国税庁がそれを認めるかどうかはわかりませんが、技術的には十分可能なのです。つまり、みなさんも、みなさんの顧客である経営者も、将来安泰であるという保証はますますないということです。

こうした未来においては、「今、自分に必要な資質は何か」と考える人だけが生き残れます。逆に言えば、独学を続けた人のなかからしか、成功者は出てこないということです。そして、それは学校で教えてくれるものではない。自分で学ぶしかないのです。

コミュニケーションのなかから「問題」が見えてくる

さて、独学をする場合には、いくつかの問題点があります。まず第1が、学校などとは違って、コミュニケーションの場が得にくいことです。

シリコンバレーではたくさんのベンチャー企業が誕生しましたが、それにはスタンフォード大学が非常に重要な役割を果たしたと言われています。講義の内容ではありません。スタンフォード大学という「場」に集まった人たちのコミュニケーションが重要だったのです。誰かが「こういう授業をやったらいいんじゃないか」と言い出せば、侃々諤々の議論が始まる。それこそが重要なのです。

私が行ったイェール大学でも、講義が終わったらみんな廊下やラウンジに集まって、コーヒー片手に雑談をしていました。「これからどんなテーマを研究するべきだろうか」といった内容です。そこで「自分が何を学ぶべきか」が練られていく。大学院生にとって研究テーマの選定は非常に重要な問題ですが、それは教室で教えてくれるわけではありません。コミュニケーションのなかから見えてくるのです。

学校、とくに大学院では、同じような知識を持ち、似たような問題意識を持っている人が集まっています。「自分は一体、何を学ぶのか」という問題を考えるとき、そうした仲間とのコミュニケーションが非常に重要なのです。

大事なのは、そのコミュニケーションは自然に発生したインフォーマルなものであるという点です。もし、セミナーやフォーラムのように議論の場を設けたら、義理や人情で来る人もいれば、「何かいいことを教えてもらえるかもしれない」と受動的な態度で来る人もいるでしょう。それでは自分で主体的に学ぶ人たちの集まりにはなりません。創造的であるためには、インフォーマルな集まりであることが大切なのです。

独学の場合、学校とは違ってこうしたコミュニケーションの場が得られにくい。そこが難しい点の1つです。

とにかく始めてみる、そうすれば成功する

問題の第2は、何を学ぶかのカリキュラムを自分で作らなければいけないという点です。これが、独学でもっとも難しい部分と言えるでしょう。

しかし、「何をやればいいか」を探して、用意が整ってから始めるよりは、まず第一歩を踏み出すことのほうが重要です。「とにかく始めるべきだ」というのが私からのアドバイスです。

もちろん、選んだ内容が間違っていることもあるでしょう。おそらく、間違っていることのほうが多いはずです。しかし、間違っていたらやり直せばいいのです。独学のいい点は、間違っていると思ったらすぐに内容を変えられることです。これは学校ではできません。

私は大学では工学部に入学しました。しかし、後になって工学部で学んだこととは別のことをしたいと考えました。ところが、大学では学部を変更するのが非常に難しく、時間的ロスが大きいのです。そこで私は自分で学んだほうがはるかに早いと思い、独学で学び直しました。独学なら、間違っていても簡単にやり直せるのです。

まず始めないと、何も進みません。始めなければ、成功もあり得ません。これは自明のことですが、私はここで逆の命題も提示したいと思います。それは、「とにかく始める、そうすれば成功する」ということです。

文章を書くとき、一番難しいのは書き始めることです。「何を書いたらいいか」と考えていると、なかなか書き出せない。しかし、とにかく書き始めてしまえば文章は出来上がります。

それが他のことにも当てはまるのです。「とにかく始める、そうすれば成功する」。おそらく、そう言われても多くの人が信じないでしょう。しかし、これは正しいのです。そのことをここで強調しておきたいと思います。

第一歩を踏み出すための方法を、左上に提案しておきました。みなさんは、今すぐこの3つを習慣にしてください。非常に簡単なことばかりですが、効果は絶大です。面倒だと思わず、最低1つは日々の心がけにしてください。

最強の独学法は「人に教えながら学ぶ」こと

こうして学ぶ内容のヒントがつかめたら、次は独学を“継続させる”ための条件を整えます。独学は、途中で飽きてしまったりして、継続するのが難しいのです。それが第3の問題です。

継続させるには、p.11のように4つのポイントがあります。これをクリアする1つの手段として私がおすすめしたいのが、「人に教える」ことです。学ぶには、教えることが一番手っ取り早いのです。じつは、この手法も私自身の経験から編み出しました。私は教えることによって独学してきたからです。

私は早稲田大学の大学院でファイナンス理論を教えていました。しかし私は、経済学は勉強しましたが、ファイナンス理論は勉強していなかったのです。ファイナンス理論は新しい学問分野でしたから、私にとって未知の分野でした(実は、その当時は多くの人にとってそうでしたが)。

ただし、人に教えられるかどうかの見極めはしました。アメリカで標準的に使われている教科書を入手し、内容を見たところ、これまで私が知っていた経済学でカバーできるとわかったからです。

伝説の都市トロイアを発掘したシュリーマンは、語学の天才でもありました。彼がロシア語を学ぼうとしたとき、お金を出して人を雇ったそうです。ロシア語を教わるために雇ったのではありません。ロシア語の朗読を聞かせるために雇ったのです。人に教えることは独学するのに非常に有効なのです。

昔であれば、教師と学生の差はおおむね20年ほど差があったでしょう。教師は20年前に学校で研究して知的な蓄積を作り、それを学生に教えていたのです。しかし、現代ではそれでは到底追いつきません。とくに変化の激しい分野では、数年前の知識ですら、すぐに古くなって役に立たなくなってしまいます。

今は、教師と学生の差は縮まっている――あるいは縮まらなくてはいけないのです。私は、今は3日あれば十分ではないかと思います。

教えるといっても、今はいろいろな手段があります。ブログを作るのでもいいのです。税理士・会計士の方であれば、「AI時代の会計学入門」ならできるでしょう。税理士事務所には大抵ホームページがありますから、なおさら都合がいい。短期集中連載として、期限を切ってやるのもいいと思います。

人に見られるから間違ったことを書くわけにはいかないと、一所懸命学ぼうとするでしょう。中途半端では終われないと思えば、継続するでしょう。ブログを作ることによって、自分に「縛り」を設けるわけです。あとは、やりながら考えていけばよい。

こうして独学が進めば、必ずAIに負けない「何か」を身に付けることができるはずです。「何を知るべきかという方向性を決めること」、これはAIでも解決できない問題です。AI時代にこそ必要なスキルが「独学力」なのです。来たる時代に備えて、ぜひ独学力を高め、AI以上の「プロ」になってください。

Profile

野口悠紀雄

1940年、東京生まれ。63年、東京大学工学部卒、翌年大蔵省入省。72年にイェール大学で経済学博士号を取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、2017年9月より早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問。一橋大学名誉教授。近著に『仮想通貨はどうなるか』(ダイヤモンド社)『入門AIと金融の未来』(PHPビジネス新書)など。

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