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コストセンターからの脱却!進化する人事労務

クラウドサービスと従来のサービスの違い

2016年、安倍政権が最重要テーマと位置付けたおかげで、しょっちゅう耳にするようになった「働き方改革」。これまで積極的に向き合ってこなかった企業も一斉に取り組みをスタートさせ、空前の働き方改革ブームが巻き起こっている。この流れは一過性で終わることなく、今後の日本のスタンダードになっていくだろう。
こうした動きと並行して、企業が今もっともアツイ視線を投げかけているのが人事労務部門である。
従来、企業のコストセンター(利益が上がらず、コストばかりが計上される部門)と揶揄されてきた人事労務が、今後は企業の生死を握るカギになる。

フリーアドレス

社員がオープンスペースを自由に使って仕事に取り組める新しいオフィス形態のこと。オフィスのダウンサイジング効果や部署・上下関係の枠を超えたコミュニケーション、実務環境を改善できるなどのメリットがあり、注目が集まっている。

1 on 1ミーティング

上司と部下が1対1でおこなう定期的な面談。部下が仕事を通じた経験や悩みを話し、上司がフィードバックすることで、やる気や成長を促す。関係性の向上、離職率低下などの効果もあり、今、世界的に注目されている人事制度。

立ち会議

日本企業では“会議が仕事の約15%を占める”と言われるが、ムダな会議と時間を減らし、集中力を高める手段として取り入れられているのが「立ち会議」だ。オフィスの一角でもでき、広い会議室が不要なのも特徴。

オンライン面接

2010年ごろから導入が増えてきたのがオンライン面接。ビデオ電話で面談したり、応募者が自分で撮影した動画を専用サイトに投稿することで、採用側・応募側ともに時間・労力・費用が抑えられる。遠隔地での採用も可能に。

リモートワーク

会社に出社せず、自宅やカフェなどで仕事をする勤務形態のこと。テレワークや在宅勤務もほぼ同義。遠隔(リモート)で指示を受けて仕事をおこなうので、場所や時間の制約に捉われず、より柔軟な働き方を実践できる。子育てや介護とも両立しやすい。

スマホで勤怠管理

従業員が増えるにつれて煩雑になるのが勤怠管理だが、スマホやPCなどを用いるクラウド勤怠管理の登場で集計作業の負担が軽減。複数拠点の勤務状況をリアルタイムで把握できるなど、給与計算に留まらないメリットも大きい。

なぜ、今「働き方改革」が必要なのか?
「数字」で読み解く日本の労働市場

働き方改革とは「一億総活躍社会の実現に向けた最大のチャレンジであり、日本の企業や暮らし方の文化を変えるもの」と厚労省は謳う。これがなぜ、今後の日本のスタンダードになっていくのか。それは数字を見れば一目瞭然。日本は今、働き方を変えるべき過渡期にあるのだ。

働く人の数がどんどん減っていく!

働き方改革には、長時間労働の是正や雇用の流動化、多様な働き方の実現、“複業”、優秀な人材の確保などさまざまな論点がある。しかし、すべてに通底するのは、少子高齢化による労働力人口の減少というマクロトレンドだ。総務省「労働力調査年報」(2016年)によると、2016年の労働力人口は6648万人。みずほ総合研究所の試算によれば、それぞれの年齢階級における労働力人口の割合が今と同じと仮定すると、約20年後の2035年には5587万人、約50年後の2065年には3946万人と、じつに4割も減少する。

このように労働力が減っていくからこそ、「①今ある労働力をどう最大化させるか」(残業や生産性の議論)、「②新しい労働力をどう確保するか」(複業や多様な人材採用の議論)という2つの大きな論点が、今後の日本経済にとって非常に重要となるのだ。

企業を悩ます深刻な「人手不足」

2017年7月に帝国データバンクが発表した「人手不足に対する企業の動向調査」によると、「正社員が不足している」と回答した企業は45.4%にも上った。
それを裏付けるように、6月には正社員の有効求人倍率(季節調整値)が2004年の調査開始以来、初の1倍を超え、パートタイムを含む全体の有効求人倍率(同)は1.5倍と、バブル期を上回る勢いになっている。そんななか、最近とみに不安視されているのが「人手不足」を原因とする倒産だ。同じく帝国データバンクの調査によると、2017年上半期の人手不足による倒産件数は、調査を開始した4年前に比べて2.9倍にまで上昇しているのだ。倒産件数全体に占める割合はわずかではあるが、約3倍という数字は見過ごせない。

景気回復や雇用のミスマッチなどで生じている深刻な人手不足は、今まさに企業の死活問題となっている。

「生産性」の停滞が日本の課題

日本の65歳以上の人口は2060年には39.9%となることが予測されており、世界のどの国でもこれまで経験したことがない少子高齢化が進んでいる。となれば、日本が世界で生き残るためには1人当たりの労働生産性を高めるしかない。
しかし、日本の労働生産性はOECD平均を下回っており、加盟35カ国中18位、主要9カ国との比較では最下位なのだ。アメリカなど労働生産性が高い国は、現状の数値が高いうえに毎年上昇を続けているが、日本ではその成長がほぼ横ばい。ただでさえ低い日本の生産性は、年々他国に水をあけられてしまっている。

従業員1人ずつのスキルをアップさせ、1人あたりの付加価値額を高めることが日本の喫緊の課題だ。

労働環境の整備により女性の就業者数が大幅に拡大

じつは、最初に「日本の労働力人口が減少する」という話をしたが、直近ではその数字は増加傾向にある。というのも、女性の就業者が大幅に増えているからだ。
もともと女性には出産・育児や介護などで就業をあきらめている人が相当数いる。2013年平均では、非労働力人口における就業希望者約428万人のうち女性は約315万人とおよそ4分の3を占め、女性の潜在的労働力は非常に高い。それゆえ、2016年の労働力人口は前年に比べて50万人増加したが、そのうちの41万人、約8割が女性なのだ。

つまり、直近の労働力人口増加は、女性が子育てや介護と両立しながら働ける環境が整ってきた要因が大きいと見ることができる。働く意欲はあるものの就業に結びついていない人を上手に活用する――そのためには多様な働き方ができる仕組みを作らなくてはいけない。今後の企業経営には、必ずその視点が必要になってくるであろう。

「ヒト」という資源をよりよく活用するために
これからの働き方を変える「HRテック」

多様な働き方の実現――それを可能にしているのが「HRテック」の存在だ。HRテックとはヒューマン・リソース・テクノロジーの略で、人事労務の領域でクラウドやAIといった新しい技術を活用することだ。 HRテックこそがこれからの働き方改革を牽引する力強い味方となる!

テクノロジーの組み合わせでより自由な働き方が可能に!

2016年は「フィンテック元年」と言われたが、2017年は日本の「HRテック元年」と位置付けられるかもしれない。今、それほどまでに急速に「HRテック」という言葉が広まりつつある。

「フィンテック」がfinancial technologyの略であるように、「HRテック」とはHuman Resource technologyの略である。じつは、人事や労務といった現場は、「会計」以上にアナログで労働集約的であり、意思決定も現場の経験や勘に基づいておこなわれてきた。リクルートワークス研究所によれば、業務が多様化するにつれ人事部の繁忙度が増しているという。現場の経験や勘だけで対応するには、すでに無理が生じているのだ。

たとえば、最近では特別めずらしいものでもなくなった「フリーアドレス」のオフィス。わが社でも「アソビバ」と称して社員の誰もが自由に使えるオープンスペースを用意しているが、ここで必要になるのは単に「空間」や「ノートパソコン」「ネット環境」だけではない。 まず、固定席とは違って資料を広げっぱなしにはできず、必然的にペーパレス化が進むため、各種資料をチームで共有できるクラウドサービスが必要になる。また、同じ部署の人間と離れていてもコミュニケーションがとれるチャットツールも要る。さらには、つねに上司の目が光っているわけではないので、従業員のタスク管理ツールや最適な人材配置ツール、誰がどれだけ成果を上げているかを測る人事評価システムも必要だろう。
単にフリーアドレスを導入するだけでも、これだけのことに取り組まなくてはいけない。そこにクラウドやビッグデータ、AIといった最新テクノロジーを導入することで、より効率的・効果的な「HR」(人事労務)を実現しようというのがHRテックなのだ。 そして、いったん新しいテクノロジーを受け入れれば、今度はそれをリモートワークやオンライン面接、遠隔地での会議など、さまざまな働き方にも応用できる。テクノロジーの組み合わせ次第でいろんな可能性が見えてくるのである。

人材サービス産業という巨大マーケット

HRテックは、すでにアメリカでは大きな市場ができあがっており、Gusto(給与支払い業務を始めとするクラウド人事サービス)やNamely(給与、保険、勤怠管理、人事配置など人事業務を総合的にサポートするシステム)といったさまざまなユニコーン企業が生まれている。

一方、これまでHRテックへの投資がアメリカの数%に留まっていた日本でも、働き方改革によって市場は急速に拡大中だ。日本の人材関連市場(人件費やアウトソーシング代、採用関連費、人材管理費など)は210兆円規模であるが、そこから人件費を差し引いても、17兆円に上る巨大マーケットが存在しているのだ。
市場規模が大きいだけあって、HRテックの種類は多岐に渡っている。比較的なじみ深いのが採用や転職、派遣に関わるサービスだろう。税理士・会計士のみなさんなら、給与計算や人事労務に関するサービスもおなじみのはずだ。他にも「従業員エンゲージメント」と呼ばれる組織評価や、IoTの技術を用いたモチベーション管理ツール、福利厚生や保険に関するサービスも増えている。また、クラウドソーシングや社内チャットなどのコミュニケーションツールも広義のHRテックに含まれる。

眠ったままの情報を〝見える化〟する

こうしたHRテックの機能を考えるときは、やはり「①今ある労働力をどう最大化させるか」と「②新しい労働力をどう確保するか」という2つの切り口で整理してみるとわかりやすい。HRテックにはそれぞれに対する“打ち手”が存在するというわけだ。

たとえば、「IBM Watson Talent」は、AIを活用して人事部に眠る膨大なデータを従業員と紐付け、さまざまな分析を可能にするシステムだ。人材育成(①今ある労働力をどう最大化させるか)や採用・マッチング(②新しい労働力をどう確保するか)がデータに基づいておこなわれ、AIに任せられる仕事はAIに任せ、社内制度策定や人事施策など人がやるべき仕事に注力できるようになる。
また、ワークスアプリケーションズでは、人事業務全般を統合的に支援する「HUE」というERPシステムを提供。グループ会社をまたいでの人事管理、給与計算、勤怠・工数管理、グローバルでの人材活用などが可能なシステムで、人事労務領域で課題となっている入力作業を極限まで削り、あらゆる視点から「今ある労働力をどう最大化させるか」を考えられる仕様になっている。

重要なのは、いずれのHRテックサービスも、「これまで見えなかったデータを可視化して分析することで、どのようにして組織の生産性を高めるか」というアプローチを用いていること。勘頼みの人事から、データに基づく科学的人事へと転換することが可能になるのだ。

HRテックの恩恵を受けていない中小企業

とはいえ、これだけ働き方に関する議論が盛り上がり、またHRテックというソリューションが登場しているにも関わらず、中小企業はまだその恩恵にあずかっていない。政府の働き方改革はどちらかというと大企業向けの施策であり、HRテックのサービスも大企業を想定したものが多い。中小企業にはオーバースペックになりがちなのだ。

しかし、ここまで述べてきたように働き方改革はHRテックの存在なくしては語れない。日本企業の9割を占める中小企業で生産性の向上ができなければ、日本の働き方改革は実現しないだろう。
実際、大企業と中小企業では、労働生産性に雲泥の差がある。中小企業の従業員1人当たりの付加価値額(労働生産性)は大企業の2分の1以下で、ここ10年くらいはほとんど上昇していない。中小企業こそ、生産性アップが急務なのだ。 では、中小企業はどのようにして取り組んでいけばいいのだろうか? それには2つのステップを踏むといいだろう。
まずは、業務を徹底的に効率化すること。freeeの調査でも、中小企業の人事労務領域では履歴書や年末調整、給与明細など「紙からExcelデータへの手入力」といった業務が多く、結果としてHR担当者の多くが本来やりたい施策に時間を割けられていないという実態が浮き彫りになっている。「紙」や「秘伝のExcel」にまみれた業務を改善し、業務フローを整えることが肝要だ。

次に、基本的なデータをリアルタイムで可視化すること。たとえば「わが社には現在どの部署に何人いて、どの程度のコストがかかり、ROIはこれくらい」というデータがすぐに出せる経営者がどのくらいいるだろうか。こうした基礎的なデータがきちんと揃うことで、より高次な分析や施策が初めて可能になるのだ。

freeeが提供している「人事労務freee」もHRテックの1つ。2017年9月、経産省も後援する「第2回HRテクノロジー大賞」で、中堅・中小企業の生産性向上に寄与しているとして「労務・福利厚生サービス部門優秀賞」を受賞した

キーワードは「戦略人事」

このときのポイントは、ヒトに関するデータだけではなく、「カネ」のデータも必要になってくるということだ。これまでのHRのように、「何時間働いたか」というのは、生産性の分母を見ているに過ぎない。重要なのは、きちんと会社のなかのカネの流れを押さえたうえで、どのようなアウトプット(分子)が生まれているのかを把握すること。

そうした考え方を表しているのが、「戦略人事」というキーワードである。これは、経営戦略と人材マネジメントを連動させ、「ヒト」だけではなく、「カネ」を含めて考えるということを意味する。まさに人事のための人事ではなく、経営のための人事である。 逆に言えば、「カネ」を強みとする専門家に「ヒト」のデータが可視化されれば、有益なインサイトにつながるのではないだろうか。「カネ」と「ヒト」のデータが組み合わさるとき、本当の働き方改革が始まる――そこに中小企業の生産性向上の活路もあるはずだ。

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