業界を変える技術トレンド 最新Techレポート

AIと働く

クラウドサービスと従来のサービスの違い

AIの進化によって「10年後になくなる職業」と囁かれている会計士や税理士。本当に仕事を奪われてしまうのか?AIは敵なのだろうか……?
本稿ではそんな疑問に答えるべく、「AI時代の働き方」を特集。「敵に味方あり、味方に敵あり」と孫子も言ったように、正しく理解すれば敵だと思っていたAIも心強い味方になる。さあ、「Change is Chance!」の扉を開けよう!

なぜ今、空前のAIブームが起こっているのか?

人工知能(AI)は、60年も昔からいつも人類の見果てぬ夢だった。技術が発展して驚くような成果が出るたびに、人々はAIがもたらす未来に大きな期待を寄せては、思うように進まぬその進化に落胆せざるを得なかった。
しかし、いま3度目のスポットライトを浴びたAIは空前のブームを迎え、ニュースで「人工知能」の文字を見ない日はない。今回のブームは一過性ではなく、10~20年後にはAIが49%の職業を代替するとさえ言われている(※1)。
このブームの背景には、過去のAIブーム同様に、現実的なロードマップを超えた過度の期待という側面もあるだろう。しかし、この数年で産業へのAI活用は大きく進み、実際に至るところで人間の働き方を変え始めている。
技術の進歩は年々加速し、もはや5年後を予測するのも困難な状況だ。そのなかでこの先、生産性を上げ、創造的な仕事に集中するためには、「現在、そして今後のAIに何ができて、何ができないのか」を正しく理解し、AIを使いこなすべく、自らのこれからの働き方を見つめることが必要ではないだろうか。

そこで本稿では、AI進化の歴史に沿って、最新のAIの得意と不得意、そして人間の働き方をどう変えるのかを解説していきたい。

1 「日本の労働人口の49%が人工知能やロボット等で代替可能に」野村総合研究所2015年12月02日発表資料より

AIは万能ではない

そもそも“知能”とは何だろう。じつは人間の知能は定義自体も曖昧で、その全体像は未だにほとんど解明されていない。それでも、脳の構造をコンピュータで模倣し、人間の知能の一部(究極的には全部)を再現するというのが、狭義の人工“知能”(AI)研究だ。そしてAIはこれまでに3度のブームを経て、「推論・探索」「知識」「認識・学習」という3つの“知能”をなんとか獲得した。
それを大まかに説明すれば、AIは「推論・探索」によって膨大な場合分けの解を導くことが可能になり、「知識」によって膨大な因果関係に基づく解を導けるようになった。そして「認識・学習」によって、データのどこに着目すべきかをAI自身が判断できるようになった。その結果、大量のデータさえあれば高精度な予測・分類が可能になり、人の能力を補完・拡張できるようになってきているのだ。

とはいえ、裏を返せば、現在のAIには「これしかできない」ということでもある。知識を生み出すための「知恵」や、ある問題解決策を別分野に柔軟に応用する「アナロジー」のような高度な知能は、まだ実現化の見通しが立っていない。
また、現在のAIには、AIひとつ当たり1つの仕事しかうまくできないという制約がある。複数の処理が必要な複雑な仕事をこなせる汎用的なAIの実現には、この先10年かかると見られている。
このように、現在のAIは明確に得意・不得意があるので、人間の多くの仕事がこのままAIに置き換えられてしまうと考えるのは安直だ。

一方で、これらの知能を得たAIが産業にもたらす恩恵には、大きなインパクトがある。そこで、この先は、現在のAIブームがもたらされた背景と、それによって何が可能になったのか、またどんな仕事をAIに任せられるようになったのかを見ていこう。

人間の働き方を変える実用的なAIの登場

今回のAIブームの本質は、①コンピュータのコスト低下、②とくに画像・音声・自然言語分野でのAI技術革新、③大量データの蓄積という3つのトレンドが同時に起こり、圧倒的に実用的なAIが実現可能になったことだ。
実用的なAIとは、人間ができることをよりうまくやりコストを下げるか、人間ができないことをやり新たな価値を生み出すか、そのどちらかを満たすものだと考えられる。それが実用的なAIが人間の働き方を変えるための起爆剤なのだ。
これまでも人間の仕事の多くは機械化が進められてきたが、視覚や聴覚、会話に頼った属人的な作業や暗黙的なノウハウはまだまだ多く残されていた。実はそれらを司る画像・音声・自然言語などの情報をコンピュータで扱うのが難しく、非現実的な大量処理が必要だったからだ。

そんななか、クラウドとAIの技術革新により、圧倒的にコスト効率よく画像・音声・自然言語をコンピュータが扱えるようになったことで、今までは不可能だった属人的な作業や暗黙的なノウハウを容易に自動処理できる素地が整った。
加えてクラウドサービスの台頭は、AIが大量のデータから法則性を学ぶことを可能にした。AIは「この入力は正しい」「この入力は正しくはこうだ」という大量のフィードバックを得ることで、人間の認識能力をも超えた、より確かな認識や推測ができるようになってきている。

これらの背景から、視覚や聴覚の情報に基づく認識・推測・分類・異常検知などの仕事は、すでにAIが人間を超越しつつある分野になっている。今後、このような仕事は、「AIにうまく任せられないか」というオプションをつねに持っておくことが重要だと思われる。

すでに結果を出しているAIイノベーション

実用的なAIはすでに市場に多く出始めていて、例えば自動翻訳、書き起こし、手書き文字認識、病理診断の精度向上など、毎日のように新しい事例が生まれている。これまででは精度が足りず、実用化が進まなかったものも多かったが、技術革新で精度が向上し、今のAIは人間の働き方を大きく変えつつあるのだ。

例えば、マイクロソフトが「働き方AI」として発表した「MyAnalitics」は、AIシステムを活用して「メール」と「会議」について自分の作業時間を見直し、「働き方に無駄がないか」を探る機能だ。世界中のワークスタイルをクラウドに蓄積し、機械学習によって理想の働き方をアドバイスしてくれる。同社はすでにこの機能を利用し、社内での働き方改革に役立てており、「MyAnalitics」を使うことでメールと会議を1週間につき2時間短縮できるそうで、こうしたユーザーが1000人いれば従業員50人の増員に匹敵する時間が生み出せるという。この試みがうまく行けば、働き方の改善策をAIに教えてもらえるようになるのも、そう遠い未来ではないかもしれない。

現状、AIの学習にはビッグデータが重要だが、今後10年間で技術の発展が進み、より少ないデータ量でも効果的なAIが作れるようになっていくだろう。それに伴い、あらゆる産業・規模のビジネスでデータとAIによるイノベーションが起こっていくことが予想されている。

中小企業にこそAIの恩恵がある

中小企業の経営は、今後AIがそのあり方を大きく変えていく領域の1つだ。日本における中小企業の生産性の低さは、今や先進国に及ばぬどころか世界平均をも下回り(※2)、その向上が大きな課題となっている。20年間、伸び悩んでいるGDPを向上させ、国力を上げていくためには、AI活用による中小企業の生産性向上が急務なのだ。

中小企業の生産性向上のために、まずAIがもたらすのは、圧倒的な業務効率の改善だ。
本来ビジネスとはヒト・モノ・カネ、そしてそれらを持つ組織間の相互作用が大きく影響している。つまり、あちらでカネが動けばこちらでもカネが動き、相互に連動しているのだ。一般に大企業ではこの原則を最大限活用し、データベースや入力の一元化による全体最適化を大規模なERPシステムで実現している。
一方、中小企業ではそのように高価なシステムを導入できないため、紙とパッケージソフトによって業務ごとに個別最適化をするケースが多い。その結果、業務間で情報が分散され、突き合わせ・分類・転記作業などの冗長・非効率な作業が至るところで発生してしまう。
そこで、まずはクラウド上にデータを載せるところから始める。これはfreeeのような中小企業向けの安価なクラウドERPサービスを利用し始めることで可能だ。ExcelやAPIを通じた他システムとの連携も可能で、容易に全業務プロセスをクラウドに載せることができる。また紙のデータ化という問題も、画像分野でのAIによる技術革新が進むため、今後さらにコストが下がっていくだろう。

そして一度クラウド上に載せたデータは、それらの関係がつながりとして認識されるので、再入力や転記といった冗長な作業が不要になり、AIが過去の傾向から記帳や消込などの作業を自動化・最適化してくれる。
個人情報や機密情報を含まないデータは他社の傾向として利用できるため、自社データの蓄積がなくても、使い始めたときからすぐに恩恵を受けることもできる。つまり、freeeに搭載されている自動仕訳や自動消込の機能は、多くの人が使えば使うほど、AIによって賢くなっていくというわけだ。

もちろん、AIは100%の精度で推測・分類作業をすることはできないので、要求品質によっては最後に人間のチェックが必要な工程もある。とはいえ、必要な情報はAIが自動で集め、人間はチェック作業に集中できる環境を作ることで、生産性を数十倍にも高められるだろう。
すべてをAIで自動化するのではなく、人間の知能を拡張してくれる「パワードスーツ」のようなイメージでAIを活用していく姿勢が重要だ。

2 「中小企業白書」(2017年版/中小企業庁)より

AIvs.人間
AIは目的が明確な仕事をとことん突き詰めてやるのが得意だ。単純作業がAIで代替されるのはもちろん、認識・学習という知能を獲得したAIは、ホワイトカラーが担ってきた高度な頭脳労働の一部においても人間を超越し始めている。一方、AIが発展しても人間にしかできないのが、ビジョンを示し、人と対話して情熱や共感を生みながら創造性を発揮すること。現在のAIはマルチタスクが苦手で、汎用AIの実現はまだ遠い。人間はAIを正しく理解してうまく使いこなすことで、人間にしかできない創造的な活動にフォーカスできるようになっていく。

経営意思決定精度が格段に向上

そうして業務改善が進むと、次はデータを活用した経営の意思決定が可能になる。これまで中小企業では、情報の分断によって正確な経営状況の認識が難しく、勘や経験に頼った不確実な資金繰りや経営判断をおこなうことも多かった。

例えば、資金繰りの判断ミスによる黒字倒産は、今でも中小企業の倒産理由の約半数を占める(※3)。この問題は、AIによる資金繰り予測と自動与信設定による資金調達ができれば防ぐことが可能だ。 また、データに基づいて適切な取引先を選んだり、適切な補助金を推薦することもできる。売掛金や買掛金の相殺によって運転資金を最適化したり、攻守の投資のために適切な融資商品を選び出すことも可能だ。AIを使いこなすことで、大きなリスクを避けながら適切なチャレンジをしやすくなるのだ。

これらのAI活用は、クラウド上にデータが集約されるように業務プロセスを組み上げている前提があるからこそ成り立つ付加価値だ。業務をクラウドに集約して効率化していない状態でAIを活用しようとしても、大きな付加価値は得られないだろう。

3 「2011年の倒産企業で約半数が黒字企業」東京商工リサーチ2012年発表資料より

データを制するものがAI時代を制する!
現在のAIの特徴は、ある課題を解くために「データのどこに着目すべきか?」を自分で決められるようになってきた点だ。その結果、大量のデータさえあれば高精度な予測や分類によって人間の能力を補完・拡張できるようになってきている。利便性の高いクラウドサービスの台頭で多くのデータがクラウド上に蓄積・集約されるようになった今、大量のデータを持つものこそが、人間の働き方を変え得るAIを作り出す可能性を持っている。AIの学習アルゴリズムや学習環境がオープンになってきているなかで、ある領域で突出したデータを持つこと自体がコアな競争力になる時代が来ている

会計事務所を支えるfreeeのAI

こうしてみると、AI時代に人間は何をなすべきなのだろう。そう、AIを正しく使いこなして生産性を上げ、人間にしかできない創造的な仕事をすべきではないか。人間にしかできない仕事としては「ビジョンや目的を設定する」「人と対話して共感を得る」「前例がない状況で意思決定をする」といった創造的な仕事が残ると考えられる。

中小企業の文脈で言うと、これぞまさに経営の意思決定だ。AIはデータに基づく未来のオプションを示せたとしても、「なぜ事業をおこなうのか」という根本的なビジョンに寄り添った意思決定を支えることはできない。
AIによって生産性が向上し、「経営に与えるインパクト」として求められる水準も上がっていくなかで、顧問先のビジネスをクラウドに載せることで業務効率化を支援し、蓄積データからAIが上げるレポートを駆使して経営者との対話から次の一手を後押ししていくのが、これからの時代の「経営パートナー」だろう。

そして中小企業の経営者の方々と長年に渡って深い信頼を築き上げてきた会計事務所の方々こそ、次世代の経営参謀として経営者を導き、新たな付加価値を生み出していけると確信している。それをAIで支えるのが我々のミッションだ。

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敵だと思っていたAIも正しく理解すれば心強い味方になる。さあ、「Change is Chance!」

2017.08.01 もっと読む